九州大学大学院システム生命科学府

九州大学大学院システム生命科学府

EDUCATION

教育研究の目的
および教学上の三つの方針
(3ポリシー)について

01.ディプロマ・ポリシー

教育の目的

システム生命科学専攻は、「生命を包括的に理解し社会の多様な要請に応えうる生命科学者の育成」の理念に基づき、次の教育目的を掲げる。

  • 従来の生物学や医学の枠を越え、種々のテクノロジーやデータサイエンスなどを有効に活用しつつ生命を包括的に理解でき、新しい知を追求できる人材、および生命を正確に理解したうえで、健康、エネルギー、食糧問題など多岐にわたる社会問題を解決していける人材を育成する。
  • 博士課程1-2年次は、生命科学関連における広い視野と分野横断型の素養を有する高度技術者を必要とする社会的要請に対応し、生命科学を俯瞰的に理解しつつ、必要とする異分野技術を駆使して、今後の種々の社会課題に独自の視点でアプローチできる研究を自主的に遂行できる人材を養成する。また、現実社会の問題の解決に、多様な分野の関わる人々との連携を構築しつつ自らの課題解決に取り組むことのできる実践力を併せて育成する。
  • 博士課程3-5年次では、1-2年次で培った「生命を統合的に理解するための基礎力、必要な異分野の成果を柔軟に取り込むことのできる学際性」および実際の研究に展開する実践力をさらに高度に発展させながら、世界レベルで高い影響力をもつ新たな真理の発見と知の創造可能にする独創的な研究を生み出し、諸分野をリードできる高度な研究者としての能力を育成する。

本専攻は、前期と後期を区分しない5年一貫制の博士課程として教育課程を編成している。本専攻の教育の目的を達成し、所定の課程修了要件を満たした者に、博士(システム生命科学)の学位を授与することを基本とする。ただし、広範な知識を学ぶ意欲を奨励する観点から、博士論文の内容によっては、博士(システム生命科学)に代わり、博士(理学)、博士(工学)、博士(情報科学)の学位のいずれかを授与することができる制度も設けている。
 また、修士課程の修了に相当する要件を満たした者には、原則として修士(システム生命科学)の学位を授与するが、所定の要件(※)を満たした者には、その求めに応じて、修士(システム生命科学)に代わり、修士(工学)、修士(情報科学)、修士(理学)の学位のいずれかが授与される。
※「生命工学コース」では工学府、「生命情報科学コース」ではシステム情報科学府、「生命医科学コース」「生物科学コース」では基礎生命系の基礎・専門科目から、6単位以上取得した修了予定者に対して、審査の上、それぞれ工学、情報科学、理学の学位が授与される。

学習内容

1-2年次

A. 主体性・協働
コア・コンピテンス
A-1:実験で得られたデータをもとに考察を加えて自ら問題を創出することができる。
A-2:生命に対する包括的な理解に基づいて、種々の社会的問題、現代的課題に目を向けることができる。
A-3: 他者と協力し、リーダーシップを発揮して作業(演習、調査、実験等)に取り組むことができる。

B. 知識・理解
コア・コンピテンス
B-1: 自身が専門とする分野の知識を理解し、説明することができる。
生命情報科学:生命に関する種々の情報の解析に関する知識を理解し、説明することができる。
生命工学:生命現象の利用、あるいは操作により社会に還元できるテクノロジーに関する知識を理解し、説明することができる。
生命医科学:生命現象の基礎及びその医科学への適用に関する知識を理解し、説明することができる。
生物科学:分子・細胞レベルから個体までの生命現象、機序に関する知識を理解し、説明することができる。
B-2: 生物学を主分野とする学生は関連する情報学・工学分野、工学・情報学を主分野とする学生は生物学分野の研究を理解できるための基本的知識を理解して、説明することができる。
生命および生命を扱う研究や技術開発において守るべき倫理についての知識を理解して、実際に遵守することができる。

C. 技能
コア・コンピテンス
C-1: データ構築と実験手法の獲得
C-1-1: フィールド調査、資料調査、実験などを通じて、自らの研究に必要なデータ・情報を収集し、整理することができる。
C-1-2: 研究を通して、生命科学に関連した自らが関わる分野に必要な実験手技を身につけ、それを必要に応じて活用することができる。
C-2: 分析・創造
C-2-1: 研究テーマに広く関連する知識・データ・情報の関係性を分析して関連付けることができる
C-2-2: 得られた実験結果を総合し、論理的に考察を加えることができ、明晰かつ説得的な文書、論文を作成できる。
C-2-3:研究で得られたデータから仮説を導くことができる。

D. 実践
コア・コンピテンス
D-1: 自らの研究成果を正確かつ魅力的に他者に伝えるプレゼンができ、研究報告や論文発表を通して他の研究者と学術的な議論ができる。
D-2: 自ら課題を見つけ、他者と連携して、統合学際的な解決法を探ることができる。

3-5年次

A. 主体性・協働
コア・コンピテンス
A-1: 自主的に自身の研究や課題に取り組み、独自の発想や知見を論理的かつ帰納法的に評価しようとすることができる。
A-2:生命に関する包括的な理解に基づいて、種々の社会的諸問題、現代的課題に目を向け、それらに対して積極的に取り組もうとすることができる。
A-3: 他者と協力し、リーダーシップを発揮して作業(演習、調査、実験等)に取り組み、自らの企画、発想の実現を図ることができる。

B. 知識・理解
コア・コンピテンス
B-1: 自身の専門とする分野に対する高度で先端的かつ体系な知識を理解し、世界における当該研究の動向と方向性を把握して説明することができる。
B-2:生命科学の包括的な理解に基づき、専門に関連する他分野に関する広く深い知識について理解し、説明することができる。

C. 技能
コア・コンピテンス
C-1: データ構築と実験手法の獲得
C-1-1: フィールド調査、資料調査、実験などを通じてオリジナルなデータ・情報を収集し、それを理論的、体系的に整理できる。
C-1-1: 英語をはじめとする外国語を用いて、自らの研究に必要な広く深いデータ・情報を収集して、整理することができる。
C-2: 分析・創造
C-2-2: 研究テーマに広く関連する知識・データ・情報を独創的な形で結びつけ、体系づけることができる。
C-2-3: 研究で得られたデータから導いた仮説をもとに、新たな発想や発見に結び付けることができる。

D. 実践
コア・コンピテンス
D-1:複数の言語で研究報告や論文発表を行い、他の研究者と高度に学術的な議論ができる。
D-2: 社会的に意義ある課題を見いだし、それを念頭に置いて自らの研究を位置づけるとともに、他者と柔軟に連携して、リーダーシップを発揮して、その解決法を探ることができる。

02.カリキュラム・ポリシー

 ディプロマ・ポリシーを達成するため、本専攻は、生命の包括的理解と知の創造、得られる成果の社会還元という広範にわたる生命関連科学の在り方に関し、従来の医学、薬学、理学、農学、工学、情報科学という枠組みの中に混在していた内容を、互いに関連する4つのベクトルとして捉え直し、それを4つの対象領域をカバーする大講座にまとめ、カリキュラムの基礎的な単位となる4つの「コース」を設定する。別表(カリキュラム・マップ)では、この4つの「コース」におけるカリキュラムの共通形を表している。

コースワーク

博士課程1-2年次
 まず、生命を対象にする研究や技術に携わる人材が有するべき姿勢を確立するため「生命倫理学」を必修科目として履修する。
 次に、4つのコースで定義される生命科学関連分野に関する基本的な部分を学ぶ学際的入門講義「基礎科目」と、トピックスを含むより深い理解と展望を学ぶ「専門科目」を履修する。
 基礎科目に関しては、基礎生命系のコースに所属する大学院生は、生命工学系、あるいは生命情報科学系の基礎科目を、工学系のコースに所属する学生は、基礎生命系の基礎科目を履修することを必須とする。この「たすき掛け教育」により、基礎生命科学を学ぶ大学院生は、社会との接点を意識するマインドを身に付け、また、基礎研究に対し新しい方法論やテクノロジーを持ち込んで新たな研究を展開することのできる能力を身に付ける。生命工学や生命情報科学を学ぶ大学院生は、基礎生命科学や基礎医学の基盤である生物学の正確な理解を獲得して、生命を対象とする、あるいは生命情報を利用する視野の広い発想力を身に付ける。これにより、生命科学関連の各分野において、より包括的に生命を俯瞰しつつ、先端の高度な研究に携わるための俯瞰力や、正確な周辺基礎知識、新しい知見やテクノロジーを取り入れていける応用力を身に付けることが可能になる。本専攻が目標として掲げる生命科学の包括的な理解と、それに基づく高度技術者の育成を実現するための教育課程編成上のポイントと言える。
 この基盤の上に「専門科目」を履修する。この「専門科目」では、4つのコースによって、各分野でのより実践性を重んじた最先端の研究に関する授業科目が準備されているため、大学院生は、自らの能力設計に応じて履修する授業科目を選択することで、実践性や専門性をさらに深く極めることができる。
 「特別研究」では、Proposal based learningを実施する。大学院生は、複数の指導教員を選定して、その指導の下に学際的なテーマについて調査、解析、実験を行って実践力を身に付ける。
 専門分野ごとに開講される「特別演習Ⅰ」「特別演習Ⅱ」では、最新論文を読み、また自らの研究の成果をまとめて発表し、相互に議論を行うことで、専門分野を集中的に学ぶとともに、科学英語の読解力を養い、研究者・高度職業人に必要とされる論理的思考やプレゼンテーション能力、文章力も培う。
 「学際開拓創成セミナーI」では、異なるコースの教員・学生が一堂に会して、学生一人一人が行う自らの研究に関するプレゼンテーションについて議論することで、学際的研究についての理解、プレゼンテーション能力、学際領域を開拓する能力を養う。
 なお、本学府は、タイのマヒドン大学をはじめとする複数の大学と単位互換協働プログラムを実施しており、学生の相互の短期留学や研究を通して、学生の国際性、英語によるコミュニケーションスキルの充実をバックアップする体制も整えている。

博士課程3-5年次
 3-5年次では、1-2年次に育んだ学際的素養を基盤に、所属するメインコースを選択して研究プロジェクトを推進することで、生命科学関連分野における自立した研究者としてアカデミアや社会で活躍できるための高度な研究能力を身に付ける。
 複数の教員が指導に参画する「領域講究」によって、問題に対する多面的なアプローチと、異分野の成果を柔軟に取り入れ学際領域における新しい研究を創成する能力を修得する。
 また、主指導教員による「博士論文指導演習」、「領域講究」によって博士学位論文執筆に向けた手厚い支援を受ける。また、「学際開拓創成セミナーII」では、多分野の教員と大学院生が一堂に会して、学際的な視点から自らの学位研究をより深く議論することで、博士学位論文のテーマ選択や学際領域の開拓能力を培う。
 なお、3年次編入者については、1-2年次で開講される「生命倫理学」を必修とすることで、統合的な学際性の素養を補強する。

研究指導体制

博士課程1-2年次 
 1-2年次は、学際的な視点を獲得し、高度な生命科学関連分野の技術者となるための研究能力を身に付ける重要な時期である。各大学院生が実施する修士相当論文研究に対して、多角的側面から指導を行い、統合的で学際性の高い研究能力の涵養を支援するために、次の研究指導体制を整えている。
 各大学院生は、自分の研究を指導し、修士相当論文の完成へと導く教員を、専門分野とそれとは異なる分野の教員より、それぞれ1名ずつ選択し前者を主指導教員、後者を副指導教員とする。主指導教員による研究指導は、「特別研究」(6単位)として単位認定する。

博士課程3-5年次
 3-5年次も同様に、進学・編入学直後からさらに高度な研究能力を育むために、専門分野の主指導教員1名、及びそれとは異なる分野の2名以上の副指導教員を選択し、指導教員団を編成する。博士論文における研究指導は、「博士論文指導演習」(6単位)として単位認定する。

学位論文審査体制

博士課程3-5年次
 博士論文の学位論文審査基準として、5つの評価項目(1.研究テーマの位置づけと意義、2. 研究方法の妥当性、3. 論証及び結論の妥当性と意義、4. 倫理性と形式性、5. 研究能力)を設定している。学位論文は、提出時に学府予備調査会において審査に値する内容であるかどうかを評価する。審査に値する内容であると評価された場合、3名以上からなる指導教員による試問を実施して、この審査基準に基づいて評価し、その結果をコースごとの審査会、および学府全体の教授会において審議し、最終試験の合否を判定する。

03.アドミッション・ポリシー

求める大学院生像

1-2年次教育
 生命関連科学は日進月歩の学問分野であり、基礎研究から広範な社会課題解決まで極めて広い領域をカバーして、健康かつ持続可能な社会構築に最も重要な学問領域である。本専攻では、生命関連科学の分野で活躍できる高度技術者を目指す大学院生として、(1)専門領域に限定されず、未知の物事に対して関心を持ち柔軟に取り入れることのできる姿勢、(2)グローバルな場面で活躍できる語学力やコミュニケーション能力、(3)分野の垣根を乗り越えて問題解決に立ち向かう強い意思、(4)論理的に生命関連科学に取り組める基礎知識など、未知の物事に対して審理を求める知的探求心と、地球規模の社会的問題や課題に対して、他者と協力しながら、積極的に関与していこうとする態度と資質を有する学生を積極的に評価し、受け入れる。

3-5年次教育
 1-2年次教育での入学希望者に求める上記の態度や資質に加え(5)専門分野の理論や方法論、研究成果に関する幅広い知識(6)専門に隣接する分野についての学際的な基礎知識とそれを応用する姿勢、(7)研究テーマに関連する知識や収集したデータをもとに論理的に仮説を導き、それを実験結果により検証していく能力、(8)得られた成果をもとに論理的に文章を作成し、成果を発信できる語学力を含む学術的なスキルに基づき、自主的に研究活動を推進する態度や資質を有する学生を積極的に評価し、受け入れる。

入学者選抜方法との関係

1-2年次
■一般選抜、外国人留学生特別選抜、社会人特別選抜、高専専攻科修了生特別入学、学部3年次在学生特別入学を実施する。
■一般選抜および外国人留学生特別選抜では、成績証明書や国際的に認知された英語試験の成績証明書等の提出書類に加え、専門試験、口頭試験を課す。(1)にかかわる資質や態度を見るため、専門試験に加え口頭試験を、(2)にかかわる資質や態度を見るため、TOEIC、 TOEFLの成績証明提出に加え口頭試験を、(3)に関わる資質を見るため、口頭試験を、(4)に関わる資質を評価するために専門試験を実施する。
■社会人特別選抜、高専専攻科修了生特別入学では、専門試験を免除し、提出書類を重視して実施し、アドミッション・ポリシーに合致する意欲的な社会人や高専修了生を積極的に受け入れる。
■学部3年次在学生特別入学では、一般選抜に準じて実施し、(1)~(4)のすべての資質を見る。
■国際コース入学試験では、提出書類と口頭試験(コースによっては専門試験も科す)により、(1)~(4)のすべての資質を見る。

3-5年次
 3年次編入学の選抜(一般選抜)にあたっては、修士論文、研究計画書などの提出書類、それに基づく口述試験によって、上記(1)~(8)の資質・態度を身に付けているかどうかを検討し、合否の判定を行う。

人材の育成について

本学府の修了者は、情報科学、工学のセンスを持つライフサイエンティストであり、かつ、生物学のセンスを持つ工学、情報科学者であります。同時に、新規の産業や研究分野の創出のためには、倫理観および事業感覚を備えた人材でなければなりません。現在、国内において、生物科学、情報科学、工学における複数の分野に精通している教員は非常に少ないのが現状です。したがって、システム生命科学府では、情報科学、工学、生物学の教育研究にそれぞれ実績を持つ専門教員の参加が不可欠となります。

これらに実績を持つ本学のシステム情報科学研究院、工学研究院、マス・フォア・インダストリ研究所/数理学研究院、理学研究院、医学研究院、農学研究院、生防御医学研究所、基幹教育院の教員が協力し教育研究にあたります。